つめたくて柔らかな氷

 

彼氏とカキ氷を食べに行った。

 

彼は、インスタで行きたいフォトジェニックなカキ氷屋さんをいくつかクリップしていた。

人気のふわふわのカキ氷。山のような高さの氷の上に抹茶やマスカルポーネ、苺など、お洒落でカラフルなシロップがかかっている。

そういったものは余裕で1000円は超えるくせに大人気なのだ。私は「将来カキ氷屋さんになりたい。元は水だからものすごい利益出そう」とか可愛げのないことを言い、彼は「それ毎年言ってるね」と笑いながら適当に流す。

 

 

その中からひとつ選んで15時ぐらいに向かった場所は、あいにく店主が入院のため とかでお店がやっていなかった。仕方がないので渋谷に移動してクリップしていた他のお店へ。

せっかくなら個人経営の小さなお店が良い気もしたけれど、2人とも暑さにやられて思考が低下し、ヒカリエの中のお店に決める。

 

冷房の効いたお店に入り、メニューを眺めた。毎回「決まった?」と聞いた後に私と違うものを頼んでくれるところにこの人の優しさを感じる。

そして運ばれて来た氷は普通に美味しく、これは普通のカキ氷と一緒にしてはダメなんだな、と納得した。ただのカキ氷ではないから皆1500円払うのだ。おそらくフォトジェニック代も込みで。

 

 

 

食べながら、彼の後ろに東急が建てている建設中のビルが見えた。私はこの渋谷の工事中の風景が好きだ。混み合った灰色のビルと人が無数に交わる渋谷の中でカラフルな重機が入り組み、建てているのになぜか壊しているような風景。

 

昔よりも確実に完成に近づいて来ているそのビルを少し寂しく思いながら「カキ氷食べ終わったら上の展望スペースにいきたい」と伝える。

 

特に理由も聞かれずに私の提案は承諾され、ヒカリエ8階フロアへ。

たくさんの人がスクランブル交差点を行き来し、絶え間なく等間隔で電車が走り、ビルに映された映像がチカチカと何かを発信し続けている。

でも、屋内から見るそれらはやけに静かで、騒がしく流れる外の風景との差が堪らなく好きだ。20歳になる前の最後の日、1人でここに来てこの風景を見ていたくらいに。

 

 

もうひと階上がった場所にも大きな窓と座れるスペースがあったので、私が満足した後にそこへ移動した。

途中なぜか映画の話になり、彼は洋画が好きだと話した。理由を聞くと「邦画みたいに人間関係のごちゃごちゃとかなくて純粋に楽しんで見れるから」とのこと。おばちゃん達が喜劇を好きなのもわざわざ辛い人生でさらにややこしい事を考えたくないかららしいよ。と付け加える。

 

なるほどなぁ。私は真逆で、邦画のそういうところが好きなんだけどなぁ。と思う。

でも別に否定する訳じゃなく、彼は、そういう人間なのだ。

 

友達と夏になると自転車で日本を横断して、研究室のとても仲の良い先輩と海鮮丼を目当てにドライブに出かける。今日は時かけの再放送だから見なっきゃ、と言っていた。時かけとか新海誠映画が好きだと言われて誰もがそうだよね、と頷くタイプだろう。裏表が無く、人当たりがとてつもなくいい。

 

昔は彼がいつだって正しい気がしていて、私は自分の性格に対して後ろめたさを感じることが多かった。けど、最近になって別にいいんだと徐々に受け入れられるようになった。

性格は変わらないし、そんな自分に対して結構親しみを抱いていたりもする。そしてそのままを愛してくれる人も割といるので、まあいいか、と思えるようになった。

人間は光と影でバランスをとっていると思う。ただ光の方が生きやすそうだな、とは思うけど。

 

 

話している彼の方を向くと、後ろに日が落ちる前の太陽が重なり、あまりの眩しさに少し目を細める。

少し間をおいて「でも私はこの街にゴジラが来てめちゃめちゃになればいいと思う。出来れば渋谷の再開発が終わる前に」と言った。

 

ちなみに彼はシンゴジラを見たことがない。